彼はパントマイムを”芸術”にした

マルセル・マルソー生誕100周年 マウリッツィウス・シュテルクレ・ドルクス監督『マルセル・マルソー 沈黙のアート』

監督・脚本:マウリッツィウス・シュテルクレ・ドルクス
2022年|スイス=ドイツ|独語・英語・仏語|カラー&モノクロ|81分
原題:L’art du silence 英題:The Art of Silence

後援:一般社団法人日本パントマイム協会 
日本版字幕:松岡葉子

9月16日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開!

シアター・イメージフォーラムにて公開記念トークイベント決定‼

Introduction イントロダクション

パントマイムの神様の知られざる事実

“パントマイムの神様”マルセル・マルソー。ボロボロのシルクハットと赤いバラ、白塗りメイクで世界に知られる道化師“ビップ”(BIP)。言葉をひと言も発せず、身ぶりと表情だけですべてを表現するマルソーの舞台はいかにして生まれたのか?第二次世界大戦中、フランスのレジスタンスに身を投じ、ユダヤ人孤児300人余をスイスに逃がしたマルソー。危険な状況下で声を発さないコミュニケーション方法は、戦後独自の芸術表現に昇華され国境を越えて広く愛されるようになった。

マルソーと共にレジスタンスに参加した従弟、彼の遺志を継ぐ家族、ろうの世界的パントマイマー、クリストフ・シュテルクレら、マルソーを知る人物が登場し、彼の魅力を語る。沈黙の表現がなぜ人びとを惹きつけ続けるのか?豊富なアーカイブ映像を織り交ぜ、様々な視点からマルセル・マルソー、そしてパントマイムというアートの神髄に迫るドキュメンタリーである。

About Movie 作品概要

マルセル・マルソーのアーカイブ映像から本作は始まり、マルソーの娘であるカミーユ・マルソー、オーレリア・マルソー、妻のアンヌ・シッコらがマルソーの人物像や思い出、家庭での姿を語る。アンヌ・シッコは自らパントマイムの教室の運営者でもあり、「いつかマルソーについての作品を作りたかった」と語る。家族で一つのパフォーマンスを練習する風景も映し出される。マルソーの孫、ルイ・シュヴァリエは「僕が5歳のときに亡くなったから 祖父のことはあまり知らない」と語るが、彼もまたダンスを学ぶ16歳のパフォーマーである。〈マルセル・マルソーの孫〉として見られることへの重圧を感じ、自分のスタイルを創りだそうと悩む。

インタビューから浮き彫りになるのは、ユダヤ人精肉店に生まれ、アウシュヴィッツで父を殺されたという、マルセル・マルソーのバックグラウンドだ。青年期、マルソーと共にレジスタンス運動に身を捧げた、108歳になる従兄弟のジョルジュ・ロワンジェ。ロワンジェの息子ダニエルが、ユダヤ人孤児300名余をスイスに脱出させたマルソーの抵抗の精神を詳細に語る。

また、マルソーを知る二人のパフォーマーが〈音のない芸術〉を語る。ロブ・メルミンは、マルソーのマイム学校で学び、世界的に知られるようになったが、パーキンソン病に罹患して以降、パントマイムやサーカスの技法を応用し、運動スキルをトレーニングする方法を研究・開発している。本作ではそのワークショップの模様が映し出される。また、ろう者のパントマイマーであるクリストフ・シュテルクレは、生来全く聴こえないが「その代わりマイムがあった」「聴覚はないが二倍激しく生きている」と手話で語る。シュテルクレは監督自身の父親であり、監督が映像に大きな関心を持つきっかけとなった。このようにして、“パントマイムの神様”、マルセル・マルソーの実像、そして〈沈黙の芸術〉が映し出されていく。

Marcel Marceau マルセル・マルソーについて

1923年、フランス生まれ。ユダヤ人の父親はゲシュタポに捕らえられ、1944年、アウシュビッツの強制収容所で亡くなっている。戦争終結後の1946年、サラ・ベルナール劇場で身体表現を学ぶ。1947年以降、白く塗られた顔、花の飾られたよれよれのシルクハットの扮装で演じる彼のパントマイム・パフォーマンスは、広く人々の間で人気に。1955年、日本での初公演。フランスのみならずヨーロッパ各地や米国、日本、ロシア、東南アジアでも公演を続け、称賛される。役者としても最初のテレビ出演”Max Liebman Show”では見事にエミー賞を受賞。『バーバレラ』(1967年/ロジェ・ヴァディム監督/ジェーン・フォンダ主演)や、『メル・ブルックスのサイレント・ムービー』(1976年メル・ブルックス監督)などに出演。子ども向けの絵本なども手掛け、1979年パリ高等無言劇学校を、1996年には米国に無言劇振興のための<マルソー財団>を設立した。2007年フランスの自宅で心臓発作のために死去。84歳。

Charactors 登場人物

  • Anne Sicco アンヌ・シッコ

    劇作家、演出家、演劇教育者。
    フンランス南部カオール生まれ。パリで幼少期を過ごす。19歳のときマルセル・マルソーと出会い、彼を通して沈黙と目に見えないものの美を知る。1976年、パリのミモドラマ国際学校の校長から、実験クラスの指導を任された。後、アートとエッセイの会社<Le Théâtre de la Sphère>を設立。それから8年後、彼女は15人の俳優からなる一座とともにパリを離れ、“The Eye of Silence”を設立し、フランスとヨーロッパの主要な舞台で作品を発表し続けている。

  • Camille Marceau カミーユ・マルソー

    フランス南部モントーバン在住のマルセル・マルソーの娘で、ルイス・シュバリエの母親。
    パリ第8大学で舞台芸術を学んだ後、素描と彫刻を学ぶ。2011 年、初の映像作品『Details of the paths』を発表。 2013年、ステージに戻り、マリー・シーガルとアレクシス・コワルチェフスキーとともに「space coughed on me and now I am no nothing」を制作。長年にわたり、小学校での視覚芸術教育を実施。さまざまな媒体(デッサン、水彩画、絵画、インスタレーション、写真、映画、演劇など)を通じて、表現活動を行っている。

  • Aurélia Marceau オーレリア・マルソー

    マルセル・マルソーの娘で、カミーユの妹。
    オーレリアは、ジャン・コクトーの映画を小さなスクリーンで熱心に見ていた少女時代を過ごす。父、マルセル・マルソーに深く影響を受け、その舞台を熱心に見て、自分も舞台に立ちたいと思うようになり、7歳のとき、フランクフルトとマドリードでアンヌ・シッコの”La Mémoire des femmes”で初舞台に。パリ第 3 大学で映画の学位を取得した後、演劇の脚本とハムレットの人物像の研究に取り組む。後、父マルセル・マルソーとともに舞台にも。

  • Louis Chevalier ルイ・シュヴァリエ

    マルセル・マルソーの孫。16歳。ダンスを学ぶパフォーマーの卵。

  • Georges Loinger ジョルジュ・ロワンジェ

    1910年~2018年。マルセル・マルソーのいとこ。マルソーと共にフランスのレジスタンスの一員だった。第二次世界大戦中、300人以上のユダヤ人の子どもたちをスイスに脱出させた。この功績により、2016年にドイツ連邦功労十字章を受章。

  • Christoph Staerkle クリストフ・シュテルクレ

    生まれつき耳が聞こえない。パリでパントマイムの修行を積み、現在はさまざまな舞台でヨーロッパを回っている。マウリツィウス監督の父親。子どもの頃から監督のパントマイム観に影響を与えている。

  • Rob Mermin ロブ・メルミン

    プロデューサー、監督、パフォーマー、教育者、作家、講師
    国際巡回ユース・サーカス<サーカス・スミルクス>の創設者。パーキンソン病(※)を罹患。マルセル・マルソーとエティエンヌ・ドゥクルーのもとで、パントマイムを学んだロブ・メルミンは、イギリスやデンマーク、ハンガリー、旧ソ連各地などのさまざまなサーカスで、パントマイムを演じた。1987年バーモンド州グリーンズボロに<サーカス・スミルクス>を設立。コペンハーゲンのゴールド・ピエロ賞、バーモント州のベッシー賞、ロシアで開催された<国際サーカスフェスティバル>で最優秀監督賞受賞。バーモント州芸術評議会功労賞、バーモント州知事賞優秀芸術賞等の受賞歴有。

    パーキンソン病パントマイム・プロジェクト
    Parkinson’s Disease Mime project(略称:PDマイム)
    PDマイムは特発性パーキンソン病の症状を改善・緩和するために、パントマイムやサーカスの技法を応用した特定の運動スキルを、トレーニングする方法。PDマイムのクラスでは、運動管理戦略としてパラドキシカル・キネシア・インパルス(PKI)を誘発することを一つの目標とする。パラドキシカル・キネシアとは、PDに関連した運動障害を持つ人が、運動機能が大幅に制限されているにもかかわらず、突然複雑な動作をスムーズに行うという興味深い症状が起きることである。パントマイムの原理を応用すれば、日常の動きを、より意識する方法を発見できるかもしれず、この意識を適応させて運動障害を緩和させることを、このプロジェクトは意図する。

Director 監督

Maurizius Staerkle Drux マウリツィウス・シュテルクレ・ドルクス

1988年、ドイツのケルンで生まれ、チューリッヒで育つ。2012年、チューリッヒ藝術大学の映画監督学科を卒業。専攻はサウンドデザインでこれまでに多くの映画音楽を手掛けている。デビュー作 “The BÖhem Family - Concrete Love”は30カ国以上で上映され、複数の賞を獲得した。2017年からはチューリッヒ芸術大学の講師として映画と音について教鞭を執っている。

フィルモグラフィ
2022年 マルセル・マルソー 沈黙のアート(長編ドキュメンタリー)
2014年 THE BÖHM FAMILY - CONCRETE LOVE(長編ドキュメンタリー映画)
2013年 WENN DER VORHANG FÄLLT(実験映画)
2012年 Zwischen Inseln(長編ドキュメンタリー映画)
2011年 MIT LIED UND LEID(ドキュメンタリー)

Reviews コメント

  • なぜマルセル・マルソーの演技にここまで心を動かされるのか。
    それは彼が壮絶な人生を生き抜き、あらゆる苦境をその目で見てきたからだ。

    彼の作り出した沈黙の芸術は家族に、生徒に、そして世界中の人すべてに受け継がれていく。

    山積隆之介
    (カナダサーカスパフォーマー・シルクアボロンテ代表)

  • パントマイムの元祖とばかり思い込んでいたマルセル・マルソーの元を辿れば、チャールズ・チャップリンとバスター・キートンに行きつくとは知らなかった。

    そして、あろうことか、その先にマイケル・ジャクソンにまで引き継がれていたなんて。

    実は、セリフのないドキュメンタリーを作ることが私の悲願なのだが、このアイデアって、マルソーのパントマイムのスピリット=魂を受け継ぐことになるかもしれない、と思うと、最高にわくわくするではないか!

    原一男(映画監督)

  • “小手先の~”などと、その場しのぎの表面的な手法を揶揄するが、
    指先、手先を基調とした身体で《世界》を表現してしまう人がここにいる。

    “小手先”のマイムが五感を豊かに越え、世界中の人々を魅了し、
    わたしたちの心を宇宙へまで解き放つ

    清水崇(映画監督)

  • マルセル・マルソーの「ビップ」は、人種・性別・宗教・価値観・障害の有無を超えることのできる、究極のキャタクターである。生誕100周年を迎える現在においてこそ、もう一度眼をこらし、マルソーと彼を取り巻く人々の「声無き叫び」を受け止めて欲しい。

    江ノ上陽一
    (一般社団法人日本パントマイム協会代表理事 / スーパーパントマイムシアターSOUKI主宰)

  • 白塗りのクラウンはサーカスでもおなじみのキャラクターだが、マルセル・マルソーはパントマイムによって、生を、死を、哀しみを、そして歓びを体ひとつで無限に描きだす。この作品の中に、彼の平和への強い思いと言葉を超えた本当の豊かさが凝縮されている。

    西元まり (ライター・サーカス研究者)

  • 政治で自由を奪われても、それを超えてマイムで自由に羽撃はばたいてこられたマルソーさん。その根っこには、ご家族の「変わらない穏やかさ」があったことに深く感じ入りました。当たり前のことの様で、とても得難く失い易いもの。安堵の地、活力の源泉だから。

    ヨネヤマママコ (マイマー)

  • ボクはあんなに眼光鋭く、言葉以上に語り掛けてくる眼をした人を他に知らない。
    語られる貴重なインタビューの合間に、言葉を必要としない美しい映像が語り掛ける、、、、
    これはそんな沈黙の詩人「マルセル・マルソー」のドキュメンタリー。

    が〜まるちょば (マイムアーティスト)

  • マルセル・マルソー。
    それはまるで私であり、私のお婆ちゃんであり、
    花であり、さまざまな形に姿を変えていく。
    立つだけで、歩くだけで、動くだけで、身体は物語る。
    愛は果たして「愛」なのだろうか。
    言語という枠組みの中では語れないことを、彼は知っていた。
    だからこそ声も手話も超越した、身体表現を追求し続けてきたのかもしれない。
    その芸術は聴者もろう者も超えて、私たちに受け継がれていく。

    牧原依里 (映画作家/ 日本ろう芸術協会 代表理事)

  • 1955年、マルソーさんの日本初演の前宣伝の映画を観て感動した。殊に『青年、壮年、老年そして死』という、数分の間に一つ所に立ち、例の沈黙のビップが表現する人間の生き様のマイムに打たれた。
    私の演ずる狂言も簡潔な表現をモットーにしているが、それ以上の省略した演技である。
    山形県の小国で3年間、外国人・日本人のワークショップのためにマルソーさんらと共に過ごした事が忘れられない。
    この映画を観て、マルソーさんの人間、白塗りのビップの出自が感動と共に理解された思いである。

    野村 万作 (狂言師、人間国宝)

Theaters 上映情報

地域 劇場名 公開日 備考
東京都シアター・イメージフォーラム 上映終了
東京都シモキタザワエキマエシネマK2上映終了
神奈川県シネマ・ジャック&ベティ上映終了
神奈川県シネマアミーゴ上映終了
神奈川県川崎市アートセンター上映終了
栃木県宇都宮ヒカリ座上映終了
北海道シアターキノ2024/3/6(水)〜3/8(金)
宮城県フォーラム仙台上映終了
愛知県名古屋シネマスコーレ上映終了
京都府アップリンク京都上映終了
大阪府シネヌーヴォ上映終了
兵庫県元町映画館上映終了
兵庫県神戸映画資料館上映終了
広島県横川シネマ上映終了
福岡県キノシネマ天神上映終了
鹿児島県ガーデンズシネマ上映終了

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