監督:エキエム・バルビエ / ギレム・コース /
カンタン・レルグアルク
原題:Knit’s
Island 映画祭上映時邦題『ニッツ・アイランド』 / 2023年 /
フランス / カラー / 98分
日本版字幕:大城哲郎 / 宣伝デザイン:日用
/ 配給:パンドラ
INTRODUCTION
ネトゲの島をのぞき見る
仮想世界にフランスの映画クルーが潜入インタビューを敢行!
仮想世界に存在する、ある“島”。そこを舞台に繰り広げられるサバイバル・ゲーム〈DayZ〉。その“島”にフランスの映画クルーが潜入し、963時間を過ごした──破壊と殺戮、快楽と友情。遭遇したプレイヤーや蔓延るゾンビを殺さなければ生き残ることができないモラルが崩壊した世界。カオスの世界で暴虐の限りを尽くす集団や“誰も殺さない”を信条とするグループ、“ダゴス様”を崇めプレイヤーたちに信仰を施す自称牧師……オンライン・ゲームの世界で愉悦にひたる人間たちとの出会いを通して、クルーは人間の二面性に直面する。オフラインにいる生身の人間の存在をいやがおうにも感じながら、やがてクルーは、現実と仮想世界の境界を探索する旅へ向かう。その終着は果たしてどこなのだろうか?
“リアル”と“バーチャル”の境界を問う
全く新しいドキュメンタリー
実在するオンライン・ゲーム〈DayZ〉(デイジー)内に963時間潜入し撮影された本作は、ほぼ全編にわたり仮想現実内での撮影というドキュメンタリーとしてはまったく新しい手法がとられている。時に〈現実世界〉以上に美しく精巧に作り込まれた架空の “島”は、現実には不可能な殺人が許された奇妙な世界。クルーがアバターたちと交流を続けるうち、驚くべきことに現実の彼らの顔が画面越しに垣間見えてくる。 “リアル”と“バーチャル”の境界を問う本作は、先鋭的なドキュメンタリーに特化した第54回ヴィジョン・デュ・レール(スイス)で国際批評家連盟賞を受賞したほか、山形国際ドキュメンタリー映画祭2023審査員特別賞受賞をはじめとしてドキュメンタリー映画として各国で高い評価を受けた。
奇妙な“島”で明らかになる人間の本質
この不可思議な島の住人は実に様々だ。仲間の“死”を悼む人がいれば、野菜を育てる人がいる。〈DayZ〉内では人を殺すと言うヴィーガンのカップル参加者がいれば、静かな環境を求め1万時間以上もこの“島”で過ごしている人もいる。そして「殺しを楽しむ」人がいる。単なる「娯楽」を超え、人は何を求めてこの“島”にやってくるのか? アバターたちにインタビューを重ねることで、“人間性の本質”とでも言うべきものが見えてくる。
作品概要
〈DayZ〉の世界に潜入インタビューを敢行したエキエム、ギレム、カンタンのフランス人クルー。3人はインタビュアー、技師、カメラマンの役割を担い、チームでサバイバルしながらアバターたちに接触し取材を重ね、ゲームの世界の奥深くへと入っていく。ある時〈DayZ〉の“バグ”とも言えるある光景を目にした彼らは、やがて出会ったアバターたちとともに、この架空の“島”の果てを探す旅へと繰り出していく。
監督
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エキエム・バルビエEkiem Barbier
1993 年フランス、トゥールーズ生まれ。作家、フィルムメーカー、ミュージシャンとして活動。2012 年、複数のフィクションやアニメーション作品の監督および音楽を担う。2015 年、制作集団 In Extremisに参加。2017年、モンペリエ美術学校で造形表現の修士号を取得。同年、エクアドルのアマゾン川上流で撮影された42分のドキュメンタリー“Anent”とギレム・コース、カンタン・レルグアルクとともに仮想世界で撮影した短編ドキュメンタリー”Marlowe Drive”(34分)を制作。人類学、詩的表現とデジタルレンズを通した実験的作品に取り組む。
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ギレム・コースGuilhem Causse
1993年フランス・ナルボンヌ生まれ。モンペリエ美術学校で学び造形表現の修士号を取得。映画、パフォーマンス、現代美術の中間であるインスタレーションや、ビデオプロジェクションの形で、イメージとサウンドの関係を中心とした作品の制作を展開。崩壊学(コラプソロジー)、自然や気象現象の記録に興味を持ち、鑑賞者が落ち着くように誘われる空間とバーチャルイメージを組み合わせた作品を制作。映像とサウンドのシリーズ作品”Solaris”を中心に、催眠的で没入型のインスタレーションの形で、研究を発展させている。
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カンタン・レルグアルクQuentin L’helgoualc’h
1992年フランス、リヨン生まれ。2017年にモンペリエ美術学校で造形表現の修士号を取得。彫刻、ビデオ、ドローイングなどを組み合わせた造形作品を制作。2017年、エキエム・バルビエ、ギレム・コースらと共同で、仮想世界で撮影した短編ドキュメンタリー“Marlow Drive”を監督。2019年と2020年、実写と3Dアニメーションを組み合わせた2本のビデオ作品“Between Empty Things”、“Cristaux Liquides”を制作。2021年フィクション映画“Les Neiges électriques”を監督。
キャスト
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アイリス
「深夜の闇」というコミュニティのリーダー。カオスや破壊が大好き。「殺しは私たちの⽇課」と断⾔し、顔を隠して好き放題やっている。
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牧師
オオカミの姿をした神“ダゴス”を崇め、プレイヤーたちに布教する人物。宗教画に覆われた倉庫を自ら「ホワイト教会」と名付け、拠点とする。仮想世界の秩序を守るために活動している。
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スラッグ
現実世界でもパートナーであるマクロと共に、仮想世界のどこかにある“地下世界”を探している。現実世界ではビーガン(完全菜⾷主義者)でベルリン在住。ゲームをするのは「現実逃避」で、DayZは自分の子どもが寝た深夜にプレイしている。
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チル
丸いミリタリー⾵のサングラスとマスクを纏い南アフリカから参加している。現実世界では映像業界に勤務中。常に単独で⾏動し、仮想世界は「遊び場」。
REVIEW
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世界の終わりを垣間見る
98分間Screen Daily
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信じられないほど
不穏な場面の連続 !!!!Je m'attarde
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驚くべき不条理な世界
EYE FOR FILM
COMMENT
実際に終末世界の住人に取材してもこんな感じなのかもしれない。殺戮と混沌だけを求めるグループがいる一方、見知らぬ人と仲間意識でつながり、会話やダンス、野原を駆け巡るなど“普通のこと”をするために集まる人々がいる事実にほっこりした。
ZOMBIE手帖
(ゾンビ映画ウォッチャー)
現実の世界とゲームの世界、どちらが本当の"自分"なんだろう。
法律やルールに囚われていない分、もしかしたらゲームの"自分"が本当なのかも。
山本さほ (漫画家)
狂っているのはリアルか?フィクションか?
壊れているのは人間か?ゾンビか?
常識を揺さぶられ
価値観の見直しを迫られる
とても贅沢な1時間半でした
是非、この映画を「感じて」ください
岡本健
(近畿大学教授/
ゾンビ先生の『YouTubeゾンビ大学』主宰)
自分が今いる場所が、どんどんわからなくなっていく世界。誰と話し、誰と戦い、誰を探しているのか。それは自分の意識の位置を見失っていく過程。だが現実も、自分の意識の位置をしっかり確認できているのだろうか。
馬場敏裕
(サウンドトラック・ナビゲーター)
まさか2024年にDayZを題材、及び映像を使った映画が作られるとは思わなかった。
映画でありドキュメンタリーであり、非日常の非現実の人間ドラマが見れる作品。
ゲームの中なのでどうしようもなく悪い奴もいるが
突き抜けて良い人もいる不思議なDayZの世界に浸かってほしい。
ホラフキン (元祖DayZ実況者)
徐々にこちら側の“現実”が侵食されてくるような感覚に襲われる。
本作は“リアル”とはなんなのかを問いかける。“リアル”はなんのために必要なのだろうか。
藤津亮太 (アニメ評論家)
ゲーム独自の不自然な仕草、目線は決して交わらない。表層の身体に潜む二重の姿。
記録としても、暗示的な意味でも、人間関係の現実感を描く新しいアプローチだ。
この映画は、仮想現実を通じて触れてはいけない人間性が浮き彫りにされ、とても恐ろしい。
山村浩二 (アニメーション作家)
「ただ世界が存在し、生が続いている」ことそのものに感動し、嘆息する特別な瞬間が、ゲームの中に発生している。そこは仮想空間で、人々はアバターなのに。奇跡的な瞬間を捉えた見事なドキュメンタリーだ。成熟した大人たちのゲームプレイから、人生が滲み出す。
藤田直哉 (批評家/日本映画大学准教授)